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最高裁判所第一小法廷 昭和42年(あ)2043号 決定 1968年2月29日

本店所在地

東京都台東区浅草一丁目二八番三号

株式会社 小町屋本店

右代表者代表取締役

伊藤米三

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和四二年六月二六日東京高等裁判所の言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人黒崎辰郎、同川村幸信の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よつて、同四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)

上告趣意書

昭和四二年(あ)第二〇四三号

被告人 株式会社 小町屋本店

弁護人黒崎辰郎、同川村幸信の上告趣意(昭和四二年一〇月二〇日付)

原判決の量定が甚しく不当であつて、これを破棄しなければ著しく正義に反することを認める事由がある。

理由

一、原判決は、本件逋脱の犯行の動機、経緯、態様、犯行後の捜査官憲に対する協力、納税の実績、反省の点等利益な情状を何等考慮することなく控訴を棄却した。しかし右の控訴棄却は、次に述べる各情状からみて不当に重いものと言わざるを得ない。

(一) 逋脱の動機

被告会社や伊藤勝三(以下単に勝三という)が原毛の棚卸を除外したり又は売上金を除外して簿外預金にするなどの方法によつて所得を秘匿したのは被告会社の過去の実績からみて甚だ遺憾であつた。

しかし被告会社は、決して代表者個人や勝三自身の利益を図らんがためにそのような行為をしたのではない。また法人税を免れて国家に損失を与えようと意図してやつた行為でもない、いわば被告会社の代表者や勝三には逋脱の故意がなかつたとも言える事案であり、情状甚だ酌量すべき点がある。

しかして被告会社の右のような心情を理解するには、被告会社代表者伊藤米三(以下単に米三という)の経歴、被告会社の組織、勝三の職務、立場などの諸般の事情を理解しなければならない。

まず、被告会社代表者伊藤米三の経歴であるが、同人は明治四五年七月に東京市赤坂区榎町にあつた仲之町尋常小学校五年を中退し、事情あつて、かもじ、かつら業佐野松之助方に弟子入りしたが、爾来五十余年の間かもじ、かつらの研究、製造一筋に打ち込んで来たのである。記録六八六丁から六九一丁に至る経歴書中に示されるとおり大正一四年に現在の本店所在地に独立して店を持つてからは、妻ふじ共々寝食を忘れて仕事に励んだ結果、商売も順調に伸び、その誠実な性格と相俟つて業界の信望を一身に集め、日本は勿論のこと世界におけるこの種業界の指導者として重きをなすに至つたものである。そして昭和二四年に私財一切を含んだ個人企業を株式会社形態にあらため、被告会社を設立し、その社長に就任したのである。

しかし、米三は、社長とは言つても、前述のように根は仕事の虫であるためその主たる仕事は、毛髪研究(前述の経歴書中に記載されている約五〇件の特許権、実用新案権は、米三自身が研究し、個人として権利を有しているものである)かつら、かもじ等の製造指導、毛髪の目利き、人髪の仕入れ等をやつていたものである。そのため経理関係には暗く、個人企業時代には妻のふじに、また会社組織になつてからは、副社長や経理部長に経理上の処理を殆んど一任していたものである。従つて、法人税なるものの性格や逋脱がいかなる結果を招来するものであるか、はきとは理解していなかつたものである。

しかして、かようなことは勝三についても同様に言いうることである。即ち、同人は被告会社において副社長の地位にあり、経理関係はもとより、会社全体の事務を統轄していたものであるが、しかし同人は、日本大学専門部工業化学科卒業の学歴が示すように、いわば化学技術者であり、そのため被告会社においても、主たる仕事は外人向けかつらの研究(原毛の処理、脱色、着色等)をしていたものである。従つて経理関係には殆んどずぶの素人であると言つても過言ではない状態にあつたのであるかようにして、勝三も税金のことは殆んど解らず、本件が問題になつてから査察官や検察官に説明されて始めて税の逋脱の意味を知つた位なのである。(勝三四一七、六付上申書記録一、一二六丁)

次に本件において留意しなければならない点は、被告会社は形態は株式会社であつても、その実質は個人営業的色彩の濃厚な同族会社であるということである。それは、株主の構成や持株数をみれば一目瞭然たるところである。従つて精神面においても経理面においても企業と個人との完全なる分離がなされずいわばどんぶり勘定的な経営形態がとられていたものである。

被告人伊藤勝三が「私は、いつも公表の現金、簿外の現金というように別々に分けて保管していたわけではありませんから例えば簿外分についてどんどん払つてしまいますと公表帳簿上は現金残があることになつていましても、私の手元には一銭の現金もないということもあり得たわけです。そんな場合にはふじの別途の方から引出して払うことになるわけです」(勝三、四一、一、二四付質問てん末書、記録一〇四五丁)という実態がこれを如実に物語つているのである。従つて原審判決が言うところの売上金を除外して簿外預金をしたのも、いわゆる法人税を逋脱せんとして為したものではなく、「昔からやつていたように従業員には会社で払う給料や賞与等の他に盆暮にはいくらかでも小遣いをやつて面倒をみてやりたいという気持」(伊藤のぶの四一、四、九付検面調書、記録九一三丁)「従業員の待遇を良くして永く勤めてもらいたい、そのために会社の規定金額よりいくらかでも裏で出してやりたい」(ふじ四〇、七、二八付質問てん末書、記録八九〇丁)「苦労しても個人でやつていた頃は売上金など自由に使えたのに、会社になつてからは全部会社のために使われてしまう、万一、会社がつぶれてしまつたら無一文になりかねない」(ふじ四一、四、九付検面調書、記録九一三丁)「商売や建物が全て会社会社となつてしまつて一つも私達のものが残らないと愚知をいう母を安心させようと考え」(勝三、四一、四七付検面調書、記録一〇九五丁)、「また、商売や会社に万一のことがあつた場合、当てにしていない余分な金がなくては実際問題として困る」(勝三、四一、一、二九付質問てん末書、記録一〇五一丁)という気持から始めたものである。

尚勝三については婿養子であるという立場から、ことに母を安心させようとして行動した胸中に、同情を禁じ得ないものがある。

また原毛の棚卸しを落したのも、結局簿外預金で買入れているため、公表する機会がつかめず(米三、四一、二、五付質問てん末書、記録九三一丁)その方法もつかないでいる中に段々数量が増してゆき、またあまり使い物になる原毛でもないのでつい倉庫にしまつたままにしておいたため資産として計上することができなかつたものである。

かようにして、被告会社の行つた行為は、結果的には税を逋脱することになつたが、しかし、その動機は、前述のような個人企業的意識から来た善意に基く蓄積にあつたものであり、被告会社をして深く責めることができないものがある。

(二) 所得の秘匿行為の態様

所得秘匿行為の態様については、昭和四〇年二月期(第一九期)を除き、前述のように、主として売上金を除外して簿外預金にしたり、また簿外預金で仕入れた原毛を資産に計上しないという方法によつて行つていたものである。しかしその方法たるや、前述の逋脱の動機と相俟つて甚だ単純かつ幼稚なものである。

即ち、吉祥寺店、立川店勘定のように現金を簿外預金にしながら売上伝票はそのまま経理に廻したりというようなまるで簿外預金をしていることを公表するような方法で売上金を除外したりしている。

かようにして秘匿行為の方法態様から言つても、いかに被告会社の反社会性が少ないものであるかが理解され得るであろう。

(三) 簿外預金の使途

簿外預金の使途も、本件の場合、会社役員等の私的利益のために費消されたものは全くなく、支出の全部が被告会社のためになされていることを注意していただきたい。簿外原毛の仕入の全部が簿外預金から支払われていることは前述のとおりであるが、その外にも例えば馬道工場の建築費約九五五万円(勝三、上申書、記録九九二丁)、銀座店増築費三三万円(勝三、上申書、記録九九〇丁)、本店建築費約一二五万円(記録一六〇丁)、公表の給料(勝三、四一、一、二四付質問てん末書、記録一〇四五丁)、裏給与(同一〇四三丁)、従業員に対する心付(ふじ、四一、四、九検面調書、記録九二二丁)等であり、その明細は勝三が記入していた押収にかかる「売上日記帳」などに記入されているとおりである。

かようにして被告会社役員は、簿外預金を私利、私欲のために支出したことは全くないのである。

(四) 特に第一九期決算における逋脱の動機と所得秘匿の態様

四〇年二月期の決算において、被告会社関係者が合計二億四千万円の利益繰延をしたことは争いないところである。ただ、問題はそれがどのような事情からどのような方法で行われたかである。

まず、利益繰延をした事情であるが、結局被告会社が多額の利益繰延をしたのは、資金繰りの必要からであつた。売上げが順調に伸びていた被告会社において何故そんなに資金繰りに苦しんだかと言えば、それは埼玉県越谷市に新築した大袋工場の建築に合計四億七千万円(土地購入八千八百万円、工場建築一億二千八百万円、宿舎建築一億二千七百万円、機械設備一千万円、その他)の資金を必要とし、内二億四千万円は市中銀行から、内一億一千万円は雇用促進事業団から夫々融資を受けることが出来たが、残り二億三千万円は自己資金を準備しなければならなかつたからである。(北村正夫四〇、七、二八付質問てん末書、記録八一六丁)、ここで我々は資本金二千万円の被告会社が何故このように巨額な設備投資をしたのかを考えてみなければならない。それは畢竟被告会社社長伊藤米三及び副社長勝三の国家社会的見地からおける失業救済事業に端を発しているものである。

エネルギー革命によつて石炭の需要が急激に減り、合理化の波に洗われて廃山した炭鉱従業員の悲惨な有様を見聞した米三及び勝三は政府の無為無策に義憤を感じ、何とかしてこの人達に救いの手を差し伸べようと考え、被告会社において幾人かの人達でもよいから出き得る限りにおいて救済しようと考え、昭和三八年一二月頃から約一カ年の間に三菱鉱業崎戸炭鉱、同端島炭鉱、その他から合計約七〇世帯(家族員数約三一〇名内被告会社従業員約一五〇名)の炭鉱離職者を受け入れたのである。このため先ず第一に工場施設の拡張、整備が必要であつたことは勿論であるが、それに加えて離職者の全部が平均家族数四、五名という世帯持ちであるので、家族ぐるみ受け入れようと考え、前述のように宿舎付きの大袋工場を新築するに至つたものである。しかもその完工時期も前記炭鉱離職者に対する雇用促進事業団からの宿舎提供は就職後一年間に限られていたので被告会社としては昭和三九年暮までに右の受入離職者全員の宿舎を完成しなければならず、そのため資金繰りの苦しいところを無理をして大袋工場の完工を急いでいたものである。

右のように被告会社関係者が必死に努力した甲斐があつて大袋工場は予定通り完工した。このような被告会社関係者の努力に対しては昭和三九年九月に労働大臣もこれを賞しているものである。(記録六八九丁)尚この時身体障害者をも採用しているので、身体障害者雇傭による表彰も労働大臣より受けている。

かようにして、被告会社としては、いわば公共的見地から炭砿離職者を救済せんとして過大なる設備投資をなし、そのために資金繰りが極度に逼迫し、銀行融資も思うにまかせぬまま、利益繰延という手段を用いて納税時期をずらそうとしたものである。従つてむしろ被害者は、被告会社であると言つても過言ではないのである。

次に利益繰延の方法であるが、社長米三、副社長勝三は前述のように税金を含めた経理事務に暗くこのため担当社員から約三億九千万円の利益が出たとの説明を受けても、税金を払えるかどうかの資金繰りの点のみを心配していたところ、たまたま勝三に資金繰りの点を問われた担当社員が「資金繰りの面から会社の対外的信用を落さないためにも、また安全に資金運用をするためにも、利益を減らして申告する以外に方法はない」との趣旨の発言をなし(北村正夫、四一、四、一二付検面調書、記録八三三丁)、また同社員が「売上を少くしたり、仕入を多くするなどという姑息な方法を用いては必ず税務署に摘発される。その方法については経理担当者が考える」というのでその言葉に勝三が一任したところ、「越谷工場が動き出して会社に寄与するのは四〇年八月頃からであるから翌期ならば、一九期の減額分も併せて納税できる。」と確信した担当者が、売上減少、架空仕入の方法により振替伝票を作成して合計二億四千万円の利益繰延をなし(尚かような操作はあくまで利益繰延の目的のみをもつてなされたものであるから記帳は、総勘定元帳にのみなされ、補助簿には一切手を加えていない)。その繰延された数額に基いて勝三が責任者として署名し、浅草税務署に申告したのである。尚ここに、右の繰延は申告日から一ケ月経た四〇年五月三一日に全部また元に戻されていることを強調しておく(内野良和、四〇、七二八付質問てん末書、記録七三七丁)。

かようにして、一九期の逋脱は、金額は大きいが、しかしその事情には甚た同情すべき点があり、その方法もいまだかつて会社設立後一度も赤字決算を行つたことのない被告会社においては、利益繰延は、全く納税の時期をずらすという目的と意味以外の何物をも有していなかつたのである。

(五) 一九期における被告会社の申告取得額と実際取得額との差について

被告会社は、一七期、一八期の各事業年度は白色申告であつたが、一九期は青色申告が認められたので、貸倒引当金(一、六九〇、三八五円)、価格変動準備金(五、四五九、三八五円)、減価償却引当金(二、四三三、三五〇円)、海外市場開拓準備金(一、五二〇、六五〇円)の合計金一一、一〇三、七七〇円を損金計上して利益から直接控していた。

ところが、本件が摘発されたので、青色申告が取消され、右の損金計上の特典が認められなくなつたそのため、修正貸借対照表に基いて算出された実際取得は金四九五、〇〇四、九五三円となり、申告額一一九、五四四、三〇二円との差額は金三七五、四六〇、六五一円となつたが、右差額の内、金一一、一〇三、七七〇円は前記のように特典を取消されたために増えた金額であり、その分については被告会社関係者に所得を秘匿するなどという意思が全くなかつたものであることを附言しておきたい。

(六) 被告会社の国家に対する貢献

脱税が国民の義務に反して国家に損害を与えるものであることは勿論である。

しかし後述のように現在は逋脱した金額を完納しているので、結果的には損害がないと言いうる。

多面国家に対して多大の貢献をなしているのである。

即ち第一七期売上金約二億六千万円の内約四〇%(約一億四百万円)、第一八期売上金約四億六千万円の内約六〇%(約二億七千六百万円)及び第一九期売上金約十億五千万円の内約六〇%(約六億三千万円)は、夫々外国貿易による売上金額である。このように、被告会社は輸出によつて外貨を稼ぎ経済的に国家に貢献しているのである。(被告伊藤勝三、四一、四、七付検面調書、記録、一〇六七丁、一〇六八丁)かかるが故にこそ昭和四一年六月二八日には通商産業大臣から輸出の安定的拡大並びに日本国経済の発展に貢献したとして輸出貢献企業の認定がなされたのである。

尚被告会社は、この輸出において単に経済的に外貨を獲得するというにとどまらず、月本商品の優秀性をも海外に宣伝するという役割を果し、このため昭和四一年一〇月二八日には、被告会社の製品ヘアピースが昭和四一年度東京都優良輸出商品選定会において優良輸出商品として選定され、東京都知事によつてこれが選定を証されているのである。

(七) 改俊の情

前記(一)の逋脱の動機において述べたとおり、本件が発生したのは勝三や被告会社関係者にもともと反社会的悪性があつたからではなく、いわば税に対する知識の乏しさから起つた事犯と言えるものであるから捜査官に指摘されて自己の非を知つた勝三並びに被告会社関係者の改悛の情は甚だ深い。

それはまず本件訴訟記録を一読しても判明するように、本件捜査が予想外に早く、しかも円滑に進捗したのは、一にかかつて勝三や被告会社関係者の協力にあつたからである。関係者が提出した上申書の数をみただけでもその間の事情は明らかであろう。被告会社の経理担当員が国税庁に出頭して担当査察官の取調に協力した日数だけでも内野良和が約一〇〇日、北村正夫が約一五日、女子社員三名が延日数約四〇日、合計延日数約一五五日に達するのである。

かような態度は第一審原審においても一貫してとられ、ただただ、謹慎の意を表し、爼上の鯉同様に裁判所の公正な判断に身をゆだねたのである。

ただ被告会社の態度がそうであつたからといつて、被告会社は決して拱手して何もしなかつたというのではない。

まず納税の点については、銀行からの短期借入金三億円を二年間の長期借入に切替えた上(勝三、四一、七、六付上申書、記録一一二七丁)住友生命保険会社から合計二億円の融資を受け、一五期(自、三五、三、一至三六、二、二八)の修正申告分として昭和四一年六月一三日に金三、〇三六、四九〇円を(記録一一三五丁)、一六期(自三六、三、一至三七、二、二八)の修正申告分として右同日金四、三六三、四九〇円を(記録一一三六丁)、一七期(自三七、三、一至三八、二、二八)の修正申告分として右同日金一七、七四八、二五〇円を(記録一一三七丁)一八期(自三八、三、一至三九、二、二九)の修正申告分として同年七月一一日に金八、八七九、二六〇円を(記録一一四二丁)、一九期(自三九、三、一至四〇、二、二八)の修正申告分として同月一九日に金八、七三一、一一〇円(記録一一四三丁)同年八月三〇日に金一五、〇〇〇、〇〇〇円同年九月三〇日に金五〇、〇〇〇、〇〇〇円、同年一〇月三一日に金五〇、〇〇〇、〇〇〇円、同年一一月三〇日に金三五、〇〇〇、〇〇〇円、総計金一九二、七五八、六〇〇円を納付し、逋脱分全額を完納したのである。

尚、被告会社に対しては罰金の他に右逋脱税額の約三〇%に相当する利子税重加算税等の課税(合計約五千八百万円)があり、これをも納付しなければならないものであるが、被告会社では、右の制裁をも甘受して早急に納付しようと決意しているものである。

また被告会社は、その組織の点についても部課制の実施に努力したりして(勝三三、四一、四、七付検面調書記録一〇六二丁)、近代的企業経営に脱皮しようと一生懸命つとめているのである。

ことに伊藤勝三は、そのおかれた立場が婿養子という複雑な立場にあり、しかも化学技術者でありながら高度の経理上その他会社管理に必要とされるあらゆる知識、経験を要求される副社長の地位にあつたものであり、右のような立場、地位より被告会社の本件逋脱行為がなされてしまつたものであり、同人が述べんとする切々たる心情を訴えた上申書(記録一一二六丁)は、その間の事情を酌んで余りであるものがある。

(八) 結論

原判決は、右のような情状を何等考慮することなく控訴を棄却したが、しかし、被告会社はすでに利子税、重加算税等でその逋脱額以上の制裁を受けているものであり、そのうえさらに罰金刑四、五〇〇万円を課されることは、右のような次第の逋脱内容からして本当に酷な判決だと言わざるを得ない。逋脱をした金員は、会社外の何人も一円たりとも利得をしていないのである。

右を考慮のうえ、原判決破棄のうえ、温情のある相当な判決を賜りたい。 以上

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